中村誠一(なかむらせいいち)

所属:大学院サステイナブルシステム科学研究科 / 次世代考古学研究センター
職階:特別招聘教授(専任)、センター長
専門:マヤ考古学・文化資源学


研究内容

 私の専門は、古典期(紀元250~900年頃)と呼ばれる最盛期マヤ文明の研究です。古典期のマヤ文明社会は、旧大陸の古代文明のように政治的に統一されることがなく、現在のメキシコ南部からホンジュラスの西部にかけて60から70の王国が存在したと言われています。それらの痕跡は、各地に古代都市遺跡として残されていますが、初めて現地へ渡ってから40年にわたる研究歴のうち、後半の24年間は世界遺産登録されている遺跡を中心に調査研究して来ました。現在はホンジュラスのコパンのマヤ遺跡(1980年文化遺産登録)とグアテマラのティカル国立公園(1979年複合遺産登録)で調査研究を行っています。

 コパンでの調査研究は、宇宙線ミューオンMuonを使った王墓空間の探索やコパン王の一人と思われる埋葬の同位体分析やゲノム解析を始め、先端的な文理融合研究を行って王朝史の解明を目指しています。1980年代後半から2000年代にかけて、碑文解読学、考古学、図像学、形質人類学、同位体化学による学際研究で確立された定説では、コパン王朝は西暦426/427年に、カラコルCaracol(ベリーズ)およびティカル(グアテマラ)と関係する外来王ヤシュ・クック・モという人物において創始され、この人物はペンシルバニア大学博物館調査隊が発見したフナルという建造物内石室墓の被葬者であると言われて来ました。欧米の研究者たちは、その定説に基づき、精緻なコパン王朝史を築きあげていますが、文理融合研究の成果とともに、自身がコパンにおける過去の発掘調査で収集して来た一次資料を使って、王朝創始時期とそのプロセスの検証を行い、不明な部分の多い王朝史の前半部の歴史を明らかにしたいと考えています。

 一方、グアテマラ・ティカル国立公園では、コパン王朝創始時期におけるティカル王朝の比較研究を行っています。ここでは、2012年からティカルの都市中心部の北のアクロポリス区域をティカル国立公園と合同で調査研究対象としています。現在は、建造物5D-35の修復保存に注力しており、考古学的な発掘調査は、修復保存作業に伴う事前発掘に限定しています。しかしながら、ティカルでは28年ぶりとなるマヤ文字を刻んだ石碑の断片や黒曜石製・チャート製エクセントリック石器群の埋納が発見されるなど、小規模な発掘でも大きな成果を挙げています。また、文化庁と連携しSDGs達成に向けた文化遺産保存国際協力活動にも注力しており、文化資源学的な実践研究を行っています。これは、遺跡の調査や記録、修復保存に必要な三次元計測の方法とそのデータの活用法を教えていく研修事業です。オンライン研修では、英語の講義にスペイン語の通訳を付けて行うため、中南米全体に門戸を広げており、中南米の数多くの国から希望する人が参加しています。

 また、前任校では、コロナ禍で中断しましたが、 2018年まで学生たちの海外インターンシッププログラムや異文化体験実習もティカルとコパンの双方で行っていました。いよいよコロナ禍が収束したので、ティカルやコパンで、再び、学生や大学院生の国際交流活動が再開できる日が来ることを願っています。


主な著書・論文

  • 中村誠一(2023)「考古フォーカス:ホンジュラス共和国コパン(Copan)遺跡-日本の国際協力が突出しているマヤ文明を代表する古代都市遺跡-」、『考古学研究』 、70-1(277)
  • Nakamura, Seiichi 2023, ”Reseña del Proyecto Arqueológico La Entrada (Primera Fase 1984-1989, Segunda Fase 1990-1994)”, In Seiichi Nakamura, Takuro Adachi and Masahiro Ogawa (eds.), Japanese Contributions to the Studies of Mesoamerican Civilization(Studies in Ancient Civilizations 1), Institute for the Study of Ancient Civilizations and Cultural Resources, pp. 1-7.
  • Nakamura, Seiichi, Takuro Adachi and Masahiro Ogawa 2023, Japanese Contributions to the Studies of Mesoamerican Civilization(Studies in Ancient Civilizations 1), Institute for the Study of Ancient Civilizations and Cultural Resources.
  • 森谷公俊、鶴間和幸、中村誠一(2022)『古代遺跡大図鑑(Newton大図鑑シリーズ)』ニュートンプレス。
  • Nakamura, Seiichi 2021 “PROARCO II (Proyecto Arqueológico Copán, Segunda Fase) : Objetivos, Justificación, y Resultados Preliminares” (PROARCO II, コパン考古学プロジェクト第二フェーズ:目的、実施意義、予備成果), Kanazawa Cultural Resource Studies , Vol. 28.(スペイン語と英語の2ヵ国語で執筆)
  • 中村誠一(2021)「マヤ文明コパン遺跡における古典期王権に関する諸問題」『北陸と世界の考古学:日本考古学協会金沢大会資料集』319~322頁。
  • 中村誠一(2021)『ラテンアメリカ文化事典』(共著/2-20「文化遺産の活用と地域社会」17-5「日本人による古代アメリカの探求」を執筆)、丸善出版。
  • Suzuki, Shintaro, Seiichi Nakamura and Douglas Price 2020, “Isotopic proveniencing at Classic Copan and in the southern periphery of the Maya Area: A new perspective on multi-ethnic society”, Journal of Anthropological Archaeology Vol.60, pp.1-17.
  • Nakamura, Seiichi 2020, “Proyecto Arqueológico Copán (PROARCO): Investigaciones Arqueológicas en los Grupos 9L-22 y 9L-23, Copán, Honduras, Vol.3”(コパン考古学プロジェクトPROARCO:グループ 9L-22, 9L-23における考古学調査⑶), Kanazawa Cultural Resource Studies , Vol. 25.(スペイン語と英語の2ヵ国語で執筆)


コパン遺跡7号神殿発掘調査
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