中子冨貴子(なかこふきこ)
所属:国際文化交流学部 国際文化交流学科 / 次世代考古学研究センター
職階:教授(専任)
専門:観光、観光社会学
九谷焼と石の文化と現代の観光
私自身は観光研究が専門であり、特に地域社会との関係、多様な人の旅行を可能にするバリアフリー(ユニバーサル)ツーリズムが研究の中心です。
また、所属する小松大学は公立大学として地域の様々な方との協働、学生の地域でのフィールドワークが盛んに行われていることが特徴となっています。その中で、私自身が赴任以来継続的に取り組んでいるのは、この地に続く伝統産業の九谷焼に関係する事柄です。「事柄」という意味は、九谷焼という焼き物の歴史や成立過程、あるいは製法に焦点があるだけでなく、成立に関わる歴史背景、近代産業として確立してきた中での地域経済基盤、現在の工芸・アートとして、あるいは観光に寄与する地域ブランドとしてなど、多様な側面を九谷焼は持ち続けているからです。九谷焼は、その歴史の始まりは17世紀に開かれた古九谷窯とされています。現在まで継続してきた九谷焼の基盤に、この地で採れる陶石、また巧みな色絵の様式があります。これらの「昔から続く」色絵様式は、一見「古くさい」とみられがちですが、学生とフィールドワークを重ねると「おしゃれだ」、「かわいい」という声が上がります。
このように続いてきた九谷焼の製作現場を訪ね焼き物作家さんにお話を聞いたり、資料館や行政など九谷焼に携わる人とフィールドワークで関わったりするわけですが、様々な方に出会えます。これは、九谷焼がこの地の人々の生活に根付いた存在となって生き続いてきたからに他なりません。つまり九谷焼における「石の文化」とは、「人の文化」でもあることに気づかされるのです。
また、観光研究として地域社会の有り様を考えてみると、現在の地方都市は人口減少、高齢化社会の中で、いかに地域を持続させ活力を再生させるかが大きな課題になっています。そこで現在の日本の地域観光に課せられているのは、いかに観光を通して地域社会をよくしていくかという点にあります。確かに課題は多くありますが、同時に地域社会を見渡すとこれまで観光資源と見なされてこなかったものも含め、多様な資源が豊富にあることに気づかされます。九谷焼もその一つであり、実際にはすでにブランドとして確立もされ、観光客にも人気になっています。しかし、まだ観光資源として、地域社会の活力に寄与できる九谷焼の世界は掘り尽くされていないように感じます。
重要な点は、歴史的に続いてきた文化を昔のものとせず、現代社会に生きる若い学生も含む世代にいかに引き継ぐか、またそれをどのように地域社会の活力に寄与させるかを考えることです。そのような考えを抱きながら研究とフィールドワークを行っています。