村野正景(むらのまさかげ)

所属:次世代考古学研究センター、(京都文化博物館学芸員)
職階:特任准教授
専門:パブリック考古学・博物館学・メソアメリカ考古学


研究内容

 私は「考古学と社会との関係を研究し、その成果に基づいて、両者の関係を実践を通して改善する試み」と定義されるパブリック考古学を専門に研究活動をおこなっています。主な活動のフィールドは、青年海外協力隊として派遣された中米エルサルバドル共和国としてきましたが、2011年以降は京都の博物館の学芸員として京都での実践に取り組んでいます。私の現在の主な研究テーマは以下の通りです。

(1)学校所在資料・学校博物館
 これまで学校と考古学の関係づくりは、①体験発掘や現地説明会、展覧会など考古学側のフィールドに教員や生徒を招き入れる取組、②考古学の成果を学校にもちこむ出前講座、③授業での考古資料や情報の活用方法の探索、④学習指導要領・教科書の検討や改正への意見発信という主に4タイプの研究や実践を通じて両者の関係性向上が図られてきました。これらの取組は、日本の考古学者の営みに深く定着し、例えば現地説明会が日本の特徴として海外の研究者から高く評価される等と、着実な成果をあげています。しかし、学校側からみれば、いずれも考古学側に資料があります。
 一方、日本の学校には教材や写真、民具、美術品、考古歴史資料等と多岐にわたる資料が所在します。それらは学校関係者以外にあまり知られていない上、人口減少による学校統廃合等をはじめ複数の要因によって散逸消失の危機にあります。そこで私は、京都の学校教員や生徒、学芸員、地域住民らと連携して、学校側にある資料の保護・活用のための取組をおこなっています。さらに近年はそれら資料の保管・展示場所を学校博物館と捉え、学校内の空間づくりに関する研究活動も実践しています。こうした取組は学校と考古学の関係構築の新たなアプローチになると考えています。

(2)アートと考古学
 ギリシア彫刻や旧石器時代の洞窟壁画などの研究にみられるように、元来、考古学は美術史と近い関係にありますが、さらに現在は現代芸術との競演が盛んになってきています。「アートと考古学」はこれまで世界考古学会議(WAC)や欧州の研究プロジェクト「コミュニティ参画型考古学の新しいシナリオ」(NEARCH)でメインテーマの一つに取り上げられ、日本でも各地で実践があります。
 私はアーティストと共働して、中米では考古学的に未解明だった過去のものづくりの技術の解明と現代的工芸品や学校教育の教材開発を行い、日本では既存の考古学的価値判断にゆらぎを与えるような「アートと考古学展-物の声を、土の声を聴け」「桃山陶器に出会う 桃山デザイン」等を開催してきました。ここで意図しているのは、考古学とアートがそれぞれに新たな価値発見、あるいは価値の共創をおこなうことです。一方で遺跡の排土や記録保存される遺構、死蔵状態の遺物がアートの力で生まれ変わり、他方で考古学はアートに新たな素材や技法、表現内容や思考を提供できるでしょう。お互いが変化をもたらすことで、文化遺産の世界はより豊かになるはずです。

(3)まちづくりと考古学・博物館
 考古学や博物館はまちづくりにどう貢献できるでしょうか。中米エルサルバドルでは考古学の発掘・遺跡整備、博物館設置は観光振興・地域開発のプログラムの一環として進められてきましたし、日本でも近年の法改正によって、博物館は社会教育法に加え、文化芸術基本法に基づく施設と法的にも位置づけられました。その博物館法改正にかかる通知では、博物館が地域のまちづくりや産業の活性化に加え、コミュニティの衰退や孤立化等の社会包摂に係る課題、人口減少・過疎化・高齢化、環境問題等の地域が抱える様々な課題を解決することを含む地域の活力向上に資するよう明記されています。
 私はこうした課題に対し、勤務する博物館界隈のまちづくり協議会と連携し、地域催事への協力、研究会・シンポジウムの開催、地域資源の共同調査、他地域のまちづくり事例の共同視察、それに地域と連携した事業(近代建築Week、三条で遊んでみよし等)を実践しています。まちづくりのアクターの一員としての参加型研究で、こうした取組の要点はソーシャル・キャピタルの蓄積にあると考えています。なお地域資産としての近代建築や「みち」の保護・活用のあり方を検討することが近年の主な焦点です。

(4)考古学の形成史
 考古学と現代社会とのよりよい関係構築を目指すには、考古学のこれまでの歩みを批判的に把握しておくことも重要です。しかしこれまでの考古学史の多くは、過去の人類の歴史をいかに明らかにしていったかという歴史研究の歩みが記され、考古学と学校、考古学とアート、考古学とまちづくりといった社会との関係づくりの様々なテーマに関する情報をえることが難しいと感じます。パブリック考古学史とでもいうべき領域です。
 私は、いわゆる近代的西洋的考古学の導入に遡る日本の近世におこなわれた考古学からスタートし、明治時代以降から現代に続くパブリック考古学史に関する研究を進めています。その成果は「近世京都の考古学者たち」「京都の画家と考古学-太田喜二郎と濱田耕作-」あるいは国立歴史民俗博物館の「いにしえが、好きっ!-近世好古図録の文化史-」等で紹介してきました。

 以上のテーマを研究する基盤として、理論的研究を重要視し、開発論や博物館学的視点から研究を進めています。またもう一つの基盤として、デジタル技術の応用を意図し、複数の関連企業・NPOと共同研究して、その成果を上記4つの研究に反映させています。これらを通じ、文化遺産の価値に気づき、未来の文化遺産を「創造」することを目指しています。


主な著書・論文

  • 村野正景「文化遺産の継承そして創造へ -参加型考古学を試みる」『過去を伝える、今を遺す : 歴史資料、文化遺産、情報資源は誰のものか』2015年11月、山川出版社
  • 村野正景「「アートと考古学」ことはじめ-京都での取組の紹介を中心に-」『田中良之先生追悼論文集:考古学は科学か』2016年5月、中国書店
  • 村野正景「謎の装飾技法を解く : いわゆるウスルタン様式土器の復元と現代的再生プロジェクト」『金沢大学文化資源学研究』16、2017年3月
  • 村野正景・和崎光太郎編『みんなで活かせる学校資料:学校資料活用ハンドブック』2019年3月、京都市学校歴史博物館(学校資料研究会ウエブサイトに掲載 https://gakkoshiryo.jimdofree.com
  • 村野正景「学校で資料に出会う、気づく:資源化の実際と今後の活動可能性」『文化資源学』第20号、2022年6月
  • 村野正景「ソーシャル・キャピタルと博物館-ウイズ・コロナ時代の社会貢献を目指して-」『資料と公共性 2022年度研究成果年次報告書』2023年3月、九州大学大学院人文科学研究院( https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/6770679/R5_01_murano.pdf